2012年3月1日木曜日

チュッパチャプス対楽天事件・知財高裁判決(前編)

 お待たせいたしました(誰も待ってないかも・・・)。ようやく、本ブログ開設後、初の実質的なブログ記事のアップになります。
 先月8日にブログを開始したにもかかわらず、その後、私の総本山ブログ(「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」)で以前書いたブログ記事をこちらのブログに移しただけで、新しい記事を全く書いておりませんでした。本当にすみません。。。まあ、総本山ブログはペースを落とすことなく更新を続けておりますので、こちらのブログの更新は、のんびりとお付き合い下さい。

* * *

 さて、実質1本目の記事は、先月14日に知財高裁で判決が言い渡されました「チュッパチャプス対楽天」事件の判決内容のご紹介です。

1.
 本件の一審原告・控訴人(以下「X社」)は、キャンディーで日本でも有名な「チュッパチャプス」の日本における商標権を有するイタリア法人です。
 本件は、インターネットショッピングモールである「楽天市場」に出店する複数の日本企業が、このチュッパチャプスのロゴ(ロゴも有名ですよね)を無断で使用したマグカップや帽子、携帯ストラップ等(「本件各商品」)を「楽天市場」を通じて販売したため、X社が、当該モールを運営している楽天(一審被告・被控訴人)に対して、差止めと損害賠償の支払いを求めた事案です。

 X社の上記の請求は、具体的には以下のようなものでした。
・楽天市場における本件各商品の展示及び販売について、楽天は、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、少なくとも本件各出店者を幇助して、X社の登録商標または周知・著名な表示に類似する標章を付した商品を展示または販売(譲渡)して、X社の商標権を侵害し、不正競争行為を行ったものである。
・よって、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき上記標章を付した商品の譲渡等の差止めと、民法709条及び不正競争防止法4条に基づき弁護士費用相当額の損害賠償を求める。

 本件の中心的な争点は、本件各商品の展示及び販売について、楽天が商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号、2号)の「譲渡のために展示」または「譲渡」を行ったかどうか、という点でした。
 これは、楽天自身は楽天市場を運営しているだけであって、実際に本件各商品を販売したりネットに商品を掲載していたのは、上記の本件各出店者だったことから、「楽天自身が上記の商標法や不正競争防止法にいう『譲渡のために展示』をしたとか、『譲渡』をしたとか評価することができるのか」ということが問題になった訳ですね。

2.
 本件の一審である東京地裁の判決(平成22年8月31日・判例時報2127号87頁)は、以下のように判断しました。(以下、下線は筆者による)

(1)
 「そこで、被告が本件各商品について上記『譲渡』を行ったかどうかについて検討する。
 前記前提事実によれば、①被告が運営する楽天市場においては、出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、②被告は、上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については、当該出店ページの出店者が当該商品の『譲渡』の主体であって、被告は、その『主体』に当たるものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても、その販売に係る『譲渡』の主体は、本件各出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきである。」

(2)
 「これに対し原告は、楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば、被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら、前記前提事実によれば、
①被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが、個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われ、出店者は、事前に被告の承認を得ることなく、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていないこと、
②出店ページに登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与しておらず、また、商品の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していないこと、
③顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、当該商品の出店者が行い、被告は、一切関与しないこと、
④売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われること、
被告は、出店者から、販売された商品の代金の分配を受けていないこと、
⑥もっとも、被告は、出店者から、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)の支払を受けるが、これらは商品の代金の一部ではなく、また、システム利用料は売上高の2ないし4%程度であること(別表参照)に照らすと、商品の販売により、被告が出店者と同等の利益を受けているということもできないこと、
⑦顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに『注文内容確認メール』が自動的に送信され、これと同時に、同内容の『注文内容確認メール』が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが、これらの送信は、機械的に自動的に行われているものであり、被告の意思表示や判断が介在しているものとはいえないこと、
⑧被告の出店者に対するRMSの機能、ポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供等は、出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえないこと、

以上の①ないし⑧に照らすならば、実質的にみても、本件各商品の販売は、本件各出店者が、被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり、本件各商品の販売の過程において、被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと、これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない。

 また、本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから、被告の計算において、本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない。

 さらに、上記①ないし⑧に照らすならば、本件各商品の販売について、被告が本件各出店者とが(ママ)同等の立場で関与し、利益を上げているものと認めることもできない。もっとも、本件各出店者と被告との間には、被告は、本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから、本件各出店者における売上げが増加すれば、システム利用料等による売上げが増加するという関係があるが、このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば、被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

(3)
(中略)
「以上のとおり、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品の販売に係る『譲渡』(商標法2条3項2号)の主体は、出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきであり、これと同様に、『譲渡のために展示』する主体は、出店者であって、被告はこれに当たらないというべきである。
 また、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である。」
「以上によれば、本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は、商標法2条3項2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることはできず、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることもできない。
 そうすると、被告の上記行為が上記『譲渡のために展示』又は『譲渡』に該当することを前提とする原告の本件差止請求及び損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。」

 以上より、裁判所は、原告であるX社の請求を棄却しました。

(4)
 地裁判決は、本件における楽天と各出店者及び顧客との関係について詳細に事実認定・分析した上で、結論として、楽天は商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの(及び不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの)には該当しない、と判断しています。
 地裁の判断のベースにあるのは、やはり楽天自身の「譲渡」と言えるためには、楽天が出店者と顧客との間の売買に一定程度強固な関与があったり、当該売買から相当程度の利益(上記判示では「同等の」とか「直接的」利益、という言葉が使用されています)があったりすることが必要である、というスタンスのように思われます。
 さて、この地裁判決に対し、控訴審である知財高裁ではどのような判断が下されたかと言いますと・・・。
 (以下、追って更新する「後編」に続きます。本日はここまでということで・・・。)

2 件のコメント:

  1. the last pappara2012年3月3日 10:50

    なんか「続きはCMの後で!」みたいな(笑)
    首長くして待ってます!

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  2. 時間切れで前後編に分ける形になってしまい失礼いたしました。
    後編、ようやく完成しましたので、ご笑覧頂ければ幸いです。
    (私のお知り合いの方でしょうか・・・?詮索しない方がよろしいですかね(笑))

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