2012年3月26日月曜日

グーグルのサジェスト機能による表示の差止めが認められた事例

 もう既にいろいろな所で話題になっておりますので、やや遅きに失した感がありますが、「インターネット法務の部屋」というタイトルのブログならば取り上げない訳にはいかない(単に自分でそう思い込んだだけですが・・・)事件ですので、簡単に書かせて頂きます。
(まだ実は忙しさが続いているため、本日も簡単めの記事であることをご容赦下さい)

1.
(以下、日経新聞の記事、及び毎日新聞のウェブ記事を参考にいたしました)

 本件は、ある日本人男性がグーグルに対して申請した仮処分事件です。

 具体的には、「グーグル」で当該男性の実名を入力すると、グーグルのサジェスト機能(ある単語を入力すると、その単語の他に関連する単語を多数表示することで、より検索の結果自分が求めているサイトにたどり着きやすくさせる機能)が働き、男性の実名に加えて犯罪を連想させる単語が検索候補として表示され、その単語を選択すると、当該男性を中傷する記事が検索結果の上位に並ぶ、という事案でした。

 こうした検索機能、検索結果のため、男性は会社を解雇されたり、内定を取り消されたりしたため、この男性は、グーグルに表示の停止を求めたのですが、グーグルに応じてもらえなかったため、昨年10月、サジェスト機能の表示を差し止める仮処分を申請しました。

 東京地裁は、3月19日付で、男性側の主張を認め、差し止めを認める決定をしたとのことです。

 そこで男性側は決定を受け、22日までに表示を停止するよう改めて認めたが、グーグルは表示の停止には応じていないとのことです(毎日新聞によれば、グーグルは決定に従わないことを回答してきたそうです)。

 グーグルは、「会社の規定上、表示停止すべき事案に該当しない」(日経記事より)「単語を並べただけではプライバシー侵害に該当しない。単語は機械的に抽出されており恣意的に並べているわけではない。」「社内のプライバシーポリシー(個人情報保護方針)に照らし削除しない」(毎日新聞より)、などと主張しているとのこと。

 なお、本件、男性側は当初、グーグルの日米両法人を相手取っていましたが、日本法人が「削除権限は米法人にしかない」と主張したため、米グーグルのみが仮処分事件の当事者になっていたようです。

2.
 昨年の10月に仮処分を申請して今月に決定が出た、ということですので、申請から決定まで5ヶ月もかかっていることになります。ここからしますと、本件は、仮処分事件ではありますが、双方が準備書面のやりとりを行うなどして、比較的時間をかけて審理が行われたのではないか、ということが伺われますね。まあ、米国法人への申立書の送達とかに時間がかかった可能性もありますが・・・。(あと、外国法人が当事者の場合、どうしても書面の翻訳に要する時間がかかりますので、手続は日本人・日本企業同士の場合のように迅速には進まないという事情もあるでしょうが)

 そうしてじっくり審理した結果の決定に対して、グーグルは従わない、ということですか・・・。うむむ・・・。
 仮処分を認める決定に対しては保全異議の申立てができますので、グーグルとしては、保全異議を申し立てる、という趣旨かもしれませんけれども。(ちなみに、保全異議の申立てには、いつまでにしなければならないという期間の定めはありません)

 まあ、こういうグーグルの対応を受けて、男性側の代理人も、何とか風向きを変えようとして今回、マスコミに本件仮処分決定の情報を流したのだろうとは思いますが・・・。

 マスコミでここまで大きく話題になって、なおグーグルが本件に対するスタンスを変えないのかどうかが今後注目されるところです。

 しかし、グーグルに対して何か法的アクションを起こそうと思ったら、日本法人が相手では原則として駄目で、米国本社を相手として行う必要があるということなんでしょうか。そうだとすると、アクションを起こす側の負担は非常に重たいものがありますね。この点は、さすがにどうにかならないのかなあ、という気がしております。

(ちなみに、男性側の代理人弁護士は富田寛之先生とおっしゃる方ですが、富田先生は、カリフォルニア州のロー・スクールに留学経験のある方のようですね。http://www.c-lf.com/ )

* * *

 以上、ほとんど直感的な感想レベルですが、本件に関して思ったことを書かせて頂きました。

2012年3月5日月曜日

チュッパチャプス対楽天事件・知財高裁判決(後編)

 さて、チュッパチャプス対楽天事件ですが、先日アップした「前編」に引き続き、本日は「後編」になります。

1.知財高裁判決
 控訴審である知財高裁では、以下のような判断が下されました(知財高裁平成24年2月14日判決)。(下線・太字は筆者による)
(読みやすさのため、筆者において段落の分け方を修正しています。実際の判決文では、下記1)内の文章は全て、段落分けをすることなく続けて記載されています)

 1)
「ア
 本件における被告サイトのように、ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し、これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において、上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは、商標権者は、直接に上記展示を行っている出店者に対し、商標権侵害を理由に、ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが、
 そのほかに、ウェブページの運営者が単に出店者によるウェブページの開設のために環境等を整備するにとどまらず運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であってその者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。
 けだし、
(1) 本件における被告サイト(楽天市場)のように、ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は、販売者・購入者の双方にとって便利であり、社会的にも有益な方法である以上、ウェブページに表示される商品の多くは、第三者の商標権を侵害するものではないから、本件のような商品の販売方法は、基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること、
(2) 仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても、出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等もあり得ることから、上記出品がなされたからといって、ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと、
(3) しかし、商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり、ウェブページの運営者であっても、出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識、認容するに至ったときは、同法違反の幇助犯となる可能性があること、
(4) ウェブページの運営者は、出店者との間で出店契約を締結していて、上記ウェブページの運営により、出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること、
(5) さらにウェブページの運営者は、商標権侵害行為の存在を認識できたときは、出店者との契約により、コンテンツの削除、出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり、
 これらを併せ考えれば、ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聴くなどして、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが、これを怠ったときは、出店者と同様、これらの責任を負うものと解されるからである。
 もっとも商標法は、その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが、商標権は『指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する』権利であり(同法25条)、商標権者は『自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから、侵害者が商標法2条3項に規定する『使用』をしている場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり、商標法が、間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって、商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。」

 2)
「イ
 そこで以上の見地に立って本件をみるに、一審被告は、前記(略)のようなシステムを有するインターネットショッピングモールを運営しており、出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが、前記(略)の番号1,2の展示については、展示日から削除日まで18日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり、同日に削除されることになる。また、前記(略)の番号3~8の展示については、展示日から削除日まで約80日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり、同日から削除日までの日数は8日である。さらに、前記(略)の番号9~12の展示については、展示から削除までに要した日数は6日である。
 以上によれば、ウェブサイトを運営する一審被告としては、商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。」

 3)
「以上によれば、本件の事実関係の下では、一審被告による『楽天市場』の運営が一審原告の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。」

 4)
 また、一審原告によるその他の主張(一審被告による不正競争防止法違反その他)についても、裁判所は否定。
 以上より、本件控訴を棄却。

 2.コメント
(1)
 上記の知財高裁の判決は、一審の東京地裁が、そもそも本件で被告(楽天)は、問題となったサイトでの本件各商品を「譲渡」または「譲渡のための展示」をした主体にあたらない以上、商標権者の専有する本件商標に関する使用権を侵害しえない、と判断したのに対し、上記1の1)で引用しましたとおり、「ウェブページの運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のために環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者」であって、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」は、「その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができる」という、新しい判断枠組を示したところにポイントがあると言えます。

 既述しましたとおり、第一審の東京地裁判決では、商標法違反を認定するためには、楽天が各出店者に対し、相当程度強固な支配・関与があったり、各出店者から楽天が相当程度の利益を得たりといった、比較的「強度の」関係が必要である、というニュアンスの判断を示していましたが、今回の知財高裁判決では、商標法違反を認定するためには、そこまで強度の関係は必要ではない、として、比較的緩やかな要件のもとで同法違反を肯定する余地を認めた、ということになるかと思います。

 また、知財高裁判決は、上記1の1)で「ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聴くなどして、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが、これを怠ったときは、出店者と同様、これらの責任を負うものと解されるからである。」とありますとおり、問題となった標章に商標権侵害があるかどうかという調査義務を負わせており、ウェブページの運営者に対して比較的厳格な義務を認めた点もポイントと言えるように思われます。

(2)
 また、上記1の1)(3)の「商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり、ウェブページの運営者であっても、出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識、認容するに至ったときは、同法違反の幇助犯となる可能性がある」という下りは、先日のウィニー事件最高裁決定(平成23年12月19日)の決定文における判断基準のうち「ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合」という部分を意識しているようにも読めました(まあ、上記(3)の判示内容は幇助犯一般に言えることではあるでしょうから、ウィニー事件からヒントを得たとは言えない可能性も結構ありますが・・・)。

(3)
 本件判決を読んで私が気になったのが、以下の点です。

① 上記判示における「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という基準のうち、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき」というのは、商標権侵害の有無について調査を尽くした後、商標権侵害があることを知ったとき、という意味だと思われます。
 しかし、ある標章が他人の商標権を侵害しているかどうかは、直ちには判明せず、その判断に時間を要したり、またその判断自体が微妙で裁判所の判断を経ないと何とも言えない、という場合(典型的には、商標の類比が問題になる場合)も往々にしてあるように思うのですね。
 そういう場合には、商標権侵害の有無の調査・判断について長い時間がかかっても、その調査をしている間は未だ「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき」には該当しない、という理解で良いのでしょうか。そうではなく、調査をしている期間にも限度があり、一定期間経過後は、どこかの時点で上記の「又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件の方に該当してしまうのでしょうか。

 この点、上記1の1)の判示内容の(2)では「仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても、出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等もあり得ることから、上記出品がなされたからといって、ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえない」とあります。
 ここで、「出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等」という文言となっていて、商標の類比が問題になっている場合が「ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえない」例として挙げられていないことからしますと、商標の類比が問題になる事例では、そもそもそうした標章の存在自体をウェブページ運営者(本件では楽天)が知った時点で、出店者に対し削除を求めないといけない、という考え方を裁判所はしているのだろうか、とも思われるところです。

 また、そもそも「又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」とは具体的にどういう場合のことを指しているのかも、必ずしもはっきりしないように思われます。

 以上、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件についての裁判所の考え方が、判決内容からは今ひとつ明らかではないように思われました。

② 判決のあてはめ(上記1の2))の部分で、「また、前記(略)の番号3~8の展示については、展示日から削除日まで約80日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり、同日から削除日までの日数は8日である。」との判示があります。
 これってよく読むと、「商標権侵害を知ってから合理的期間内に是正」したと評価できるのか、結構微妙な気がしなくもありませんね。
 上述した「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件にはない、「確実に」という文言が上記のあてはめに出てきてしまっていますし・・・。
 また、訴状の送達をもって「商標権侵害を知った」と評価している点にも、よくわからない部分が残ります。

(4)
 上記(3)①・②も含めて私なりに考えますと、商標権違反らしき標章を使用した商品等を出店者が出店していることをウェブページの運営者(楽天)が知った場合には、それが本当に商標権侵害になりうるか否かという法的議論が生じうるものであったとしても、知った段階で直ちに出店者に対して当該商品等を削除することを裁判所は結局のところ要請しているようにも思えますし、今回の知財高裁判決を前提とする限り、実務上はそのように保守的な処理をせざるを得ないように思われます。楽天のようなモールの運営会社にとっては、厳しい判決が出たということになりますでしょうか。
 ただ、それが本件のようなインターネットモールにおいて商標権侵害に該当しうる(しかし、結果的には該当しないかもしれない)問題が生じた場合の処理の在り方として本当に望ましいものなのかどうか・・・については、別途議論の余地があるようにも思っております。
 本件、上告(または上告受理申立て)がなされたか否かは把握できていないのですが、上告審の審理がもしなされるのであれば、引き続き注目すべき事件と言えそうです。

* * *

 本件、ようやくブログ記事が完結しました。本日はこんなところで・・・。

2012年3月1日木曜日

チュッパチャプス対楽天事件・知財高裁判決(前編)

 お待たせいたしました(誰も待ってないかも・・・)。ようやく、本ブログ開設後、初の実質的なブログ記事のアップになります。
 先月8日にブログを開始したにもかかわらず、その後、私の総本山ブログ(「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」)で以前書いたブログ記事をこちらのブログに移しただけで、新しい記事を全く書いておりませんでした。本当にすみません。。。まあ、総本山ブログはペースを落とすことなく更新を続けておりますので、こちらのブログの更新は、のんびりとお付き合い下さい。

* * *

 さて、実質1本目の記事は、先月14日に知財高裁で判決が言い渡されました「チュッパチャプス対楽天」事件の判決内容のご紹介です。

1.
 本件の一審原告・控訴人(以下「X社」)は、キャンディーで日本でも有名な「チュッパチャプス」の日本における商標権を有するイタリア法人です。
 本件は、インターネットショッピングモールである「楽天市場」に出店する複数の日本企業が、このチュッパチャプスのロゴ(ロゴも有名ですよね)を無断で使用したマグカップや帽子、携帯ストラップ等(「本件各商品」)を「楽天市場」を通じて販売したため、X社が、当該モールを運営している楽天(一審被告・被控訴人)に対して、差止めと損害賠償の支払いを求めた事案です。

 X社の上記の請求は、具体的には以下のようなものでした。
・楽天市場における本件各商品の展示及び販売について、楽天は、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、少なくとも本件各出店者を幇助して、X社の登録商標または周知・著名な表示に類似する標章を付した商品を展示または販売(譲渡)して、X社の商標権を侵害し、不正競争行為を行ったものである。
・よって、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき上記標章を付した商品の譲渡等の差止めと、民法709条及び不正競争防止法4条に基づき弁護士費用相当額の損害賠償を求める。

 本件の中心的な争点は、本件各商品の展示及び販売について、楽天が商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号、2号)の「譲渡のために展示」または「譲渡」を行ったかどうか、という点でした。
 これは、楽天自身は楽天市場を運営しているだけであって、実際に本件各商品を販売したりネットに商品を掲載していたのは、上記の本件各出店者だったことから、「楽天自身が上記の商標法や不正競争防止法にいう『譲渡のために展示』をしたとか、『譲渡』をしたとか評価することができるのか」ということが問題になった訳ですね。

2.
 本件の一審である東京地裁の判決(平成22年8月31日・判例時報2127号87頁)は、以下のように判断しました。(以下、下線は筆者による)

(1)
 「そこで、被告が本件各商品について上記『譲渡』を行ったかどうかについて検討する。
 前記前提事実によれば、①被告が運営する楽天市場においては、出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、②被告は、上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については、当該出店ページの出店者が当該商品の『譲渡』の主体であって、被告は、その『主体』に当たるものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても、その販売に係る『譲渡』の主体は、本件各出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきである。」

(2)
 「これに対し原告は、楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば、被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら、前記前提事実によれば、
①被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが、個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われ、出店者は、事前に被告の承認を得ることなく、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていないこと、
②出店ページに登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与しておらず、また、商品の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していないこと、
③顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、当該商品の出店者が行い、被告は、一切関与しないこと、
④売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われること、
被告は、出店者から、販売された商品の代金の分配を受けていないこと、
⑥もっとも、被告は、出店者から、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)の支払を受けるが、これらは商品の代金の一部ではなく、また、システム利用料は売上高の2ないし4%程度であること(別表参照)に照らすと、商品の販売により、被告が出店者と同等の利益を受けているということもできないこと、
⑦顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに『注文内容確認メール』が自動的に送信され、これと同時に、同内容の『注文内容確認メール』が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが、これらの送信は、機械的に自動的に行われているものであり、被告の意思表示や判断が介在しているものとはいえないこと、
⑧被告の出店者に対するRMSの機能、ポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供等は、出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえないこと、

以上の①ないし⑧に照らすならば、実質的にみても、本件各商品の販売は、本件各出店者が、被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり、本件各商品の販売の過程において、被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと、これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない。

 また、本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから、被告の計算において、本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない。

 さらに、上記①ないし⑧に照らすならば、本件各商品の販売について、被告が本件各出店者とが(ママ)同等の立場で関与し、利益を上げているものと認めることもできない。もっとも、本件各出店者と被告との間には、被告は、本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから、本件各出店者における売上げが増加すれば、システム利用料等による売上げが増加するという関係があるが、このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば、被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

(3)
(中略)
「以上のとおり、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品の販売に係る『譲渡』(商標法2条3項2号)の主体は、出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきであり、これと同様に、『譲渡のために展示』する主体は、出店者であって、被告はこれに当たらないというべきである。
 また、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である。」
「以上によれば、本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は、商標法2条3項2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることはできず、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることもできない。
 そうすると、被告の上記行為が上記『譲渡のために展示』又は『譲渡』に該当することを前提とする原告の本件差止請求及び損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。」

 以上より、裁判所は、原告であるX社の請求を棄却しました。

(4)
 地裁判決は、本件における楽天と各出店者及び顧客との関係について詳細に事実認定・分析した上で、結論として、楽天は商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの(及び不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの)には該当しない、と判断しています。
 地裁の判断のベースにあるのは、やはり楽天自身の「譲渡」と言えるためには、楽天が出店者と顧客との間の売買に一定程度強固な関与があったり、当該売買から相当程度の利益(上記判示では「同等の」とか「直接的」利益、という言葉が使用されています)があったりすることが必要である、というスタンスのように思われます。
 さて、この地裁判決に対し、控訴審である知財高裁ではどのような判断が下されたかと言いますと・・・。
 (以下、追って更新する「後編」に続きます。本日はここまでということで・・・。)