2012年7月17日火曜日

情報ネットワーク法学会に入会しました

 前回から約2ヶ月ぶりの更新になってしまいました・・・。申し訳ありません。単に、こちらのブログにふさわしいネタがなかったからなのですが。

 さて、私この度、「情報ネットワーク法学会」への入会が同会の理事会により承認され、入会させて頂くことになりました。

 (↓ 情報ネットワーク法学会のHP)
 http://in-law.jp/

 ネット関連法では有名な某さんにご推薦の労をとって頂きまして、おかげさまで、入会させて頂くことができました。

 私、この分野に関してはまだまだ研究・勉強の途上ではありますが、これを機に、インターネット関連法について更に研鑽を深めたいな、と思っております。

 以上、簡単ではありますが、ご報告でした。

2012年5月10日木曜日

消費者庁、インターネット消費者取引に係る広告表示に関するガイドラインを一部改定(口コミサイトへのステマに関する事例追加)

1.
 さて、日経新聞の5月10日付朝刊にも掲載されていましたが、昨日(5月9日)、消費者庁は、昨年10月28日に公表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を一部改定したことを公表しました(以下、改定後の当該文書を「ガイドライン」と表記します)。
 本件に関する消費者庁HP中のリリース資料はこちらです。↓
 http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf

2.
 改定された内容は、当該ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(3)問題となる事例」に、以下の事例を追加した点です。

「◯ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

 今回の改定は、消費者庁の今回のリリース文自体にも書かれておりますとおり、今年話題になった、「食べログ」における「やらせ投稿」(ステマ)を念頭に置いたものですね(もっとも、リリース文には「食べログ」という固有名詞は書かれていませんが)。

3.
 さて、口コミサイトにおける投稿についての景品表示法上の問題というのは、ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(2)景品表示法上の問題点」にも書かれていますとおり、

「口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給するものではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される『表示』には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。」(①)(下線・太字は筆者による。以下、引用部分につき同じ。)

という点が議論の出発点となります。

 この点、わかりにくいかもしれませんので、もう少し敷衍しますと、景品表示法上の「表示」とは、同法上、以下のように定義されています。

「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するもの」(景品表示法2条4項)

 上記の定義内容からもわかりますとおり、景品表示法上の「表示」は、あくまで「事業者」が主体となって行うものでなければならない訳です。

 したがって、(上述しました通り、)レストラン等の口コミサイトにおける投稿情報は、通常は、事業者ではなく、一般の利用者すなわち消費者が投稿するものですから、口コミサイトの投稿情報のうち、事業者自身が投稿したもの以外は、本来的には景品表示法における「表示」には該当せず、景品表示法の規制の対象外、ということになる訳です。

4.
 しかし、今回問題となったように、事業者(本件であれば、レストラン経営者)が専門業者に依頼して、自らのレストランについて良い内容の投稿を書かせていた場合には、一定のケースでは事業者自身が表示をした、したがって、景品表示法の規制の対象である「表示」に該当する、と評価してもいいのではないか、という考え方が出てくることになります。

 この点は、今回のガイドラインの改正前のバージョンでも既に記載されておりまして(今回の改定後のガイドラインでも引き続き記載されています)、ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(2) 景品表示法上の問題点」の部分に、上記3の冒頭の①の記載に続けて、

「ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該『口コミ』情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題になる。」(②)(下線は筆者による)

 と記載されております。

 そして、ガイドラインには、上記記載(上記②の記載)に続けて、今回新たに追加された事例(上記2の青字部分)が、他の事例と共に記載されている訳です。

 以上より、上記②の部分の記載のロジックは、景品表示法上における「事業者による表示」という概念を一定程度規範的に解釈しているものと言え、今回のガイドラインの改定は、そういった規範的解釈の一事例を追加したものである、という評価になるものと私は理解しております。

* * *

 今回の記事は基礎的な内容を整理しただけですが、本日はこんなところで・・・。

2012年5月7日月曜日

東京地方裁判所の保全事件におけるインターネット関連事件の増加傾向について

 皆様ゴールデン・ウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。 
 さて、ここ数日のネット法務関連の話題は、ゴールデン・ウィーク中の新聞報道をきっかけとした、「コンプガチャ」の景表法違反該当性の話で持ちきりですが、本日の記事はそれとは全く関係ない(笑)内容になります。

 しばらく前になりますが、法律雑誌「金融法務事情」の4月10日号(1943号)に、東京地裁民事第9部(保全事件専門部)判事である福島政幸裁判官が書かれた「平成23年の東京地方裁判所における保全事件の運用状況」という論稿が掲載されていました(同号86頁以下)。
 その論稿では、(論稿のタイトルそのままですが、)昨年1年間の東京地裁保全部における保全事件の運用状況が紹介されております。

(保全事件というものがどういう性質の事件かの詳細な説明は省略させて頂きますが、非常にざっくり言えば、保全事件手続とは、訴訟の前段階として、当事者間の権利関係を暫定的に確定させるための手続、といったイメージでご理解頂ければよろしいかと思います。)

 保全事件は大きく分けて仮差押え事件と仮処分事件に分かれ、仮処分事件はさらに「係争物に関する仮処分」の事件と、「仮の地位を定める仮処分」の事件とに分けられます。

 本日のブログ記事の関係で注目したいのが、「仮の地位を定める仮処分」についての上記論稿の記述です。

 同論稿によれば、「仮の地位を定める仮処分」事件の全体の事件数は、平成19~23年の5年間で、
(平成19年) 428件
(平成20年) 418件
(平成21年) 443件
(平成22年) 549件
(平成23年) 832件
 となっており、平成19年から21年まではほぼ横ばいであったものの、平成22年に100件近く増え、平成23年には更に300件近く激増しているとのことです。これは(恥ずかしながら)知らなかったですね。

 そして、上記事件のうち、インターネット関連の事件(すなわち、「発信者情報消去禁止」「発信社情報開示」「投稿記事削除」事件)が一定数存在するのですが、事件全体におけるインターネット関連事件の割合を比較してみますと、
        (総数)  (インターネット関連事件)
(平成19年) 428件        46件 (10.7%)
(平成20年) 418件        35件 (  8.4%)
(平成21年) 443件        51件 (11.5%)
(平成22年) 549件      175件 (31.9%)
(平成23年) 832件      499件 (60.0%)
 となっています。
 なんと、インターネット関連事件は、東京地裁における「仮の地位を定める仮処分事件」全体の6割を占めるに至っており、しかもその割合・件数のここ1~2年の増加ぶりが極めて顕著であることがわかります。凄い増加ぶりですね・・・。そして、数値を照らし合わせると、結局、上述した「仮の地位を定める仮処分」のこの2年の激増は、全てインターネット関連事件の激増によるものであることがわかりますね。
 東京地裁の保全の裁判官って、現在は「仮の地位を定める仮処分」事件のうち、5件に3件はインターネット関連事件を手がけている訳なんですね。

 なお、平成23年のインターネット関連の保全事件499件を事件類型別に見てみますと、
・発信者情報消去禁止・・・134件
・発信者情報開示・・・・・・・219件
・投稿記事削除・・・・・・・・・146件
となっているとのことです。

 まあ、このように平成22年・23年になってインターネット関連の保全事件が激増したのは、インターネット関連の法的問題が一昨年から世の中でいきなり増え始めた、ということではなく、もともと一定数の法的問題はあったものの、こうした問題を裁判手続で解決できることが最近になって世の中にネットや口コミ等を通じて広く知れ渡り、また、そういう事件を手がけているとHP等で広告宣伝する法律事務所もそれなりに現れ始めたことが原因なんだろうな、と思っております(この理解が間違っておりましたら、こっそりご指摘下さい・・・)。
 そして、こういう事件類型は、過払い事件などとは違って、すぐに世の中からなくなることは考えにくく、むしろ昨今のSNSの隆盛に鑑みれば、ますます増える可能性もあるんだろうな、と思います。

 ちなみに、この論稿でも、著者である福島判事は、「・・・とりわけ、最近ではインターネット上のホームページに掲載されている誹謗中傷等をめぐる仮処分(記事の削除、発信者情報の開示関係)が多数申立てられている。日々事件処理をしている感覚では、仮差押えを含む新受件数の総数は減少しているものの、必要的審尋事件であるところの仮の地位を定める仮処分の事件数が増加していて、債権者だけでなく債務者も呼び出して双方の言い分を聞いた上での判断を求められたり、和解による調整が必要となったりするなど各事件処理に手間がかかること、ホームページの掲載記事をめぐる仮処分にはこれまでの印刷物や電波放送による報道形態とは異なる情報伝播の性質や利用方法の特性を有するメディアであるがゆえに新しい判断を求められるところがあることなどから、事件処理の負担が軽減されてはいない状況にあり、むしろ今後はこの種の申立てがますます増加することが予想される。」と書かれています(同号87~88頁)。なるほど。

 しかし、こういった記載内容が、金融専門の法務関係者を主要読者層とする法律雑誌である「金融法務事情」に掲載されるというのもどうかな、という気もしなくもないですが(笑)(そのうち他の法律雑誌にも載るのかな?)。

 それでは、本日はこんなところで・・・。
 

2012年4月14日土曜日

違法ダウンロードに罰則を科す著作権法改正、3党が大筋合意

 本日(4月14日(土))の日経新聞朝刊の1面に、「違法ダウンロードに罰則 民自公合意 著作権保護を強化」という見出しの記事が掲載されておりました。

1.
 その記事によりますと、
「民主、自民、公明の3党は13日、違法にインターネットに配信されていると知っているのに音楽や映像などをダウンロードした場合に罰則を科す方針で大筋合意した。著作権保護の強化が狙い。政府が3月に国会に提出した著作権法改正案には盛り込んでいなかったが、3党で罰則を明記した同法案の修正案を近く議員立法で提出する。今国会で成立する見通し。」とあります。

 現在著作権改正案が国会提出され審議中のところに、議員立法ですか・・・。こういう事態は珍しいのではないかと思いますが・・・。

2.
 同新聞の4面には、より詳細な解説記事があり、そこには、
「日本では2010年1月に、海賊版など違法なコンテンツを提供するサイトと知りつつ、そこから音楽や映像などをダウンロードすることを違法とする改正著作権法が施行された。ただ文化庁は当時、『個人による違法ダウンロードは犯罪としては軽微』との理由で罰則導入は見送っていた。」
とあります。

 上記の規定は、現行著作権法の以下の規定ですね。
[著作権法30条]
1項
 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 (略)
二 (略)
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
2項 (略)

 上記の1項3号が、平成21年の著作権法改正で追加され、同改正法は2010年1月1日から施行されています。
 いわゆる「違法ダウンロード」が、平成21年著作権法改正により、著作権法30条の私的使用複製の対象から除外された訳ですね。
 もっとも、同改正で全ての違法ダウンロードが違法とされた訳ではなく、上記の条文からもわかりますとおり、違法にアップロードされたコンテンツであることを「知りながら」行うダウンロードのみが違法とされています。

 このように一定のダウンロードが平成21年の著作権法改正で違法(民事上の問題)とされることになりましたが、他方、上記引用記事にありますとおり、同改正において、そうしたダウンロードは刑事罰の対象とはされませんでした(著作権法119条1項参照)。

3.
 このように、現行の著作権法上は、一定の違法ダウンロード(違法にアップロードされたコンテンツであることを知りながら行うダウンロード)について民事上は違法とするものの刑事罰は科していなかったのですが、これを、今後は刑事罰も科すことにする、というのが今回の3党大筋合意の内容になります。

 日経の記事(1面)には、
「修正案によると、違法なダウンロードに対し、『2年以下の懲役または200万円以下の罰金』を科す。被害者の告訴がないと起訴できない親告罪とした。10月1日に施行する予定。」
とあります。
 施行の予定日まで決まっているんですね・・・。

4.
 今回の3党大筋合意に関しては、ネット上は、反対意見や議論が拙速すぎるという意見が多いようです。
 確かに、違法ダウンロードが刑罰の対象になるとなると、処罰の対象が一般人に非常に広く及び、世の中への影響は大きいですので、この点は国会でより慎重な議論を尽くすことが必要なのではないか、という気はいたしますね。

 それでは、本日は簡単ですがこんなところで・・・。 

2012年4月4日水曜日

不正アクセス行為の禁止等に関する法律の一部を改正する法律案、国会成立

 さて、少し前のことになりますが、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律の一部を改正する法律案」が、3月30日に参議院で可決し、国会で成立しました。

 同法律案の概要、新旧対照表等につきましては、以下の警察庁のサイトに掲載されています。
 http://www.npa.go.jp/syokanhourei/kokkai/index.htm

 同法は、国会で成立した翌日である3月31日(土)に公布されています(法律第20号)。
(↓ 官報のサイト)
http://kanpou.npb.go.jp/20120331/20120331t00010/20120331t000100038f.html

 施行日は、「公布の日から起算して一月を経過した日から施行する。」とのことです(一部例外あり)ので(改正法の附則第1条)、5月1日から施行ということになりますかね。

 改正法の内容については恥ずかしながら不勉強のため、今回は上記の情報のみとさせて頂きます・・・。
 簡単ですが、それでは、また。

2012年3月26日月曜日

グーグルのサジェスト機能による表示の差止めが認められた事例

 もう既にいろいろな所で話題になっておりますので、やや遅きに失した感がありますが、「インターネット法務の部屋」というタイトルのブログならば取り上げない訳にはいかない(単に自分でそう思い込んだだけですが・・・)事件ですので、簡単に書かせて頂きます。
(まだ実は忙しさが続いているため、本日も簡単めの記事であることをご容赦下さい)

1.
(以下、日経新聞の記事、及び毎日新聞のウェブ記事を参考にいたしました)

 本件は、ある日本人男性がグーグルに対して申請した仮処分事件です。

 具体的には、「グーグル」で当該男性の実名を入力すると、グーグルのサジェスト機能(ある単語を入力すると、その単語の他に関連する単語を多数表示することで、より検索の結果自分が求めているサイトにたどり着きやすくさせる機能)が働き、男性の実名に加えて犯罪を連想させる単語が検索候補として表示され、その単語を選択すると、当該男性を中傷する記事が検索結果の上位に並ぶ、という事案でした。

 こうした検索機能、検索結果のため、男性は会社を解雇されたり、内定を取り消されたりしたため、この男性は、グーグルに表示の停止を求めたのですが、グーグルに応じてもらえなかったため、昨年10月、サジェスト機能の表示を差し止める仮処分を申請しました。

 東京地裁は、3月19日付で、男性側の主張を認め、差し止めを認める決定をしたとのことです。

 そこで男性側は決定を受け、22日までに表示を停止するよう改めて認めたが、グーグルは表示の停止には応じていないとのことです(毎日新聞によれば、グーグルは決定に従わないことを回答してきたそうです)。

 グーグルは、「会社の規定上、表示停止すべき事案に該当しない」(日経記事より)「単語を並べただけではプライバシー侵害に該当しない。単語は機械的に抽出されており恣意的に並べているわけではない。」「社内のプライバシーポリシー(個人情報保護方針)に照らし削除しない」(毎日新聞より)、などと主張しているとのこと。

 なお、本件、男性側は当初、グーグルの日米両法人を相手取っていましたが、日本法人が「削除権限は米法人にしかない」と主張したため、米グーグルのみが仮処分事件の当事者になっていたようです。

2.
 昨年の10月に仮処分を申請して今月に決定が出た、ということですので、申請から決定まで5ヶ月もかかっていることになります。ここからしますと、本件は、仮処分事件ではありますが、双方が準備書面のやりとりを行うなどして、比較的時間をかけて審理が行われたのではないか、ということが伺われますね。まあ、米国法人への申立書の送達とかに時間がかかった可能性もありますが・・・。(あと、外国法人が当事者の場合、どうしても書面の翻訳に要する時間がかかりますので、手続は日本人・日本企業同士の場合のように迅速には進まないという事情もあるでしょうが)

 そうしてじっくり審理した結果の決定に対して、グーグルは従わない、ということですか・・・。うむむ・・・。
 仮処分を認める決定に対しては保全異議の申立てができますので、グーグルとしては、保全異議を申し立てる、という趣旨かもしれませんけれども。(ちなみに、保全異議の申立てには、いつまでにしなければならないという期間の定めはありません)

 まあ、こういうグーグルの対応を受けて、男性側の代理人も、何とか風向きを変えようとして今回、マスコミに本件仮処分決定の情報を流したのだろうとは思いますが・・・。

 マスコミでここまで大きく話題になって、なおグーグルが本件に対するスタンスを変えないのかどうかが今後注目されるところです。

 しかし、グーグルに対して何か法的アクションを起こそうと思ったら、日本法人が相手では原則として駄目で、米国本社を相手として行う必要があるということなんでしょうか。そうだとすると、アクションを起こす側の負担は非常に重たいものがありますね。この点は、さすがにどうにかならないのかなあ、という気がしております。

(ちなみに、男性側の代理人弁護士は富田寛之先生とおっしゃる方ですが、富田先生は、カリフォルニア州のロー・スクールに留学経験のある方のようですね。http://www.c-lf.com/ )

* * *

 以上、ほとんど直感的な感想レベルですが、本件に関して思ったことを書かせて頂きました。

2012年3月5日月曜日

チュッパチャプス対楽天事件・知財高裁判決(後編)

 さて、チュッパチャプス対楽天事件ですが、先日アップした「前編」に引き続き、本日は「後編」になります。

1.知財高裁判決
 控訴審である知財高裁では、以下のような判断が下されました(知財高裁平成24年2月14日判決)。(下線・太字は筆者による)
(読みやすさのため、筆者において段落の分け方を修正しています。実際の判決文では、下記1)内の文章は全て、段落分けをすることなく続けて記載されています)

 1)
「ア
 本件における被告サイトのように、ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し、これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において、上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは、商標権者は、直接に上記展示を行っている出店者に対し、商標権侵害を理由に、ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが、
 そのほかに、ウェブページの運営者が単に出店者によるウェブページの開設のために環境等を整備するにとどまらず運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であってその者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。
 けだし、
(1) 本件における被告サイト(楽天市場)のように、ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は、販売者・購入者の双方にとって便利であり、社会的にも有益な方法である以上、ウェブページに表示される商品の多くは、第三者の商標権を侵害するものではないから、本件のような商品の販売方法は、基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること、
(2) 仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても、出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等もあり得ることから、上記出品がなされたからといって、ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと、
(3) しかし、商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり、ウェブページの運営者であっても、出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識、認容するに至ったときは、同法違反の幇助犯となる可能性があること、
(4) ウェブページの運営者は、出店者との間で出店契約を締結していて、上記ウェブページの運営により、出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること、
(5) さらにウェブページの運営者は、商標権侵害行為の存在を認識できたときは、出店者との契約により、コンテンツの削除、出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり、
 これらを併せ考えれば、ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聴くなどして、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが、これを怠ったときは、出店者と同様、これらの責任を負うものと解されるからである。
 もっとも商標法は、その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが、商標権は『指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する』権利であり(同法25条)、商標権者は『自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから、侵害者が商標法2条3項に規定する『使用』をしている場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり、商標法が、間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって、商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。」

 2)
「イ
 そこで以上の見地に立って本件をみるに、一審被告は、前記(略)のようなシステムを有するインターネットショッピングモールを運営しており、出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが、前記(略)の番号1,2の展示については、展示日から削除日まで18日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり、同日に削除されることになる。また、前記(略)の番号3~8の展示については、展示日から削除日まで約80日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり、同日から削除日までの日数は8日である。さらに、前記(略)の番号9~12の展示については、展示から削除までに要した日数は6日である。
 以上によれば、ウェブサイトを運営する一審被告としては、商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。」

 3)
「以上によれば、本件の事実関係の下では、一審被告による『楽天市場』の運営が一審原告の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。」

 4)
 また、一審原告によるその他の主張(一審被告による不正競争防止法違反その他)についても、裁判所は否定。
 以上より、本件控訴を棄却。

 2.コメント
(1)
 上記の知財高裁の判決は、一審の東京地裁が、そもそも本件で被告(楽天)は、問題となったサイトでの本件各商品を「譲渡」または「譲渡のための展示」をした主体にあたらない以上、商標権者の専有する本件商標に関する使用権を侵害しえない、と判断したのに対し、上記1の1)で引用しましたとおり、「ウェブページの運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のために環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者」であって、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」は、「その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができる」という、新しい判断枠組を示したところにポイントがあると言えます。

 既述しましたとおり、第一審の東京地裁判決では、商標法違反を認定するためには、楽天が各出店者に対し、相当程度強固な支配・関与があったり、各出店者から楽天が相当程度の利益を得たりといった、比較的「強度の」関係が必要である、というニュアンスの判断を示していましたが、今回の知財高裁判決では、商標法違反を認定するためには、そこまで強度の関係は必要ではない、として、比較的緩やかな要件のもとで同法違反を肯定する余地を認めた、ということになるかと思います。

 また、知財高裁判決は、上記1の1)で「ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聴くなどして、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが、これを怠ったときは、出店者と同様、これらの責任を負うものと解されるからである。」とありますとおり、問題となった標章に商標権侵害があるかどうかという調査義務を負わせており、ウェブページの運営者に対して比較的厳格な義務を認めた点もポイントと言えるように思われます。

(2)
 また、上記1の1)(3)の「商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり、ウェブページの運営者であっても、出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識、認容するに至ったときは、同法違反の幇助犯となる可能性がある」という下りは、先日のウィニー事件最高裁決定(平成23年12月19日)の決定文における判断基準のうち「ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合」という部分を意識しているようにも読めました(まあ、上記(3)の判示内容は幇助犯一般に言えることではあるでしょうから、ウィニー事件からヒントを得たとは言えない可能性も結構ありますが・・・)。

(3)
 本件判決を読んで私が気になったのが、以下の点です。

① 上記判示における「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という基準のうち、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき」というのは、商標権侵害の有無について調査を尽くした後、商標権侵害があることを知ったとき、という意味だと思われます。
 しかし、ある標章が他人の商標権を侵害しているかどうかは、直ちには判明せず、その判断に時間を要したり、またその判断自体が微妙で裁判所の判断を経ないと何とも言えない、という場合(典型的には、商標の類比が問題になる場合)も往々にしてあるように思うのですね。
 そういう場合には、商標権侵害の有無の調査・判断について長い時間がかかっても、その調査をしている間は未だ「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき」には該当しない、という理解で良いのでしょうか。そうではなく、調査をしている期間にも限度があり、一定期間経過後は、どこかの時点で上記の「又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件の方に該当してしまうのでしょうか。

 この点、上記1の1)の判示内容の(2)では「仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても、出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等もあり得ることから、上記出品がなされたからといって、ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえない」とあります。
 ここで、「出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等」という文言となっていて、商標の類比が問題になっている場合が「ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえない」例として挙げられていないことからしますと、商標の類比が問題になる事例では、そもそもそうした標章の存在自体をウェブページ運営者(本件では楽天)が知った時点で、出店者に対し削除を求めないといけない、という考え方を裁判所はしているのだろうか、とも思われるところです。

 また、そもそも「又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」とは具体的にどういう場合のことを指しているのかも、必ずしもはっきりしないように思われます。

 以上、「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件についての裁判所の考え方が、判決内容からは今ひとつ明らかではないように思われました。

② 判決のあてはめ(上記1の2))の部分で、「また、前記(略)の番号3~8の展示については、展示日から削除日まで約80日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり、同日から削除日までの日数は8日である。」との判示があります。
 これってよく読むと、「商標権侵害を知ってから合理的期間内に是正」したと評価できるのか、結構微妙な気がしなくもありませんね。
 上述した「その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき」という要件にはない、「確実に」という文言が上記のあてはめに出てきてしまっていますし・・・。
 また、訴状の送達をもって「商標権侵害を知った」と評価している点にも、よくわからない部分が残ります。

(4)
 上記(3)①・②も含めて私なりに考えますと、商標権違反らしき標章を使用した商品等を出店者が出店していることをウェブページの運営者(楽天)が知った場合には、それが本当に商標権侵害になりうるか否かという法的議論が生じうるものであったとしても、知った段階で直ちに出店者に対して当該商品等を削除することを裁判所は結局のところ要請しているようにも思えますし、今回の知財高裁判決を前提とする限り、実務上はそのように保守的な処理をせざるを得ないように思われます。楽天のようなモールの運営会社にとっては、厳しい判決が出たということになりますでしょうか。
 ただ、それが本件のようなインターネットモールにおいて商標権侵害に該当しうる(しかし、結果的には該当しないかもしれない)問題が生じた場合の処理の在り方として本当に望ましいものなのかどうか・・・については、別途議論の余地があるようにも思っております。
 本件、上告(または上告受理申立て)がなされたか否かは把握できていないのですが、上告審の審理がもしなされるのであれば、引き続き注目すべき事件と言えそうです。

* * *

 本件、ようやくブログ記事が完結しました。本日はこんなところで・・・。

2012年3月1日木曜日

チュッパチャプス対楽天事件・知財高裁判決(前編)

 お待たせいたしました(誰も待ってないかも・・・)。ようやく、本ブログ開設後、初の実質的なブログ記事のアップになります。
 先月8日にブログを開始したにもかかわらず、その後、私の総本山ブログ(「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」)で以前書いたブログ記事をこちらのブログに移しただけで、新しい記事を全く書いておりませんでした。本当にすみません。。。まあ、総本山ブログはペースを落とすことなく更新を続けておりますので、こちらのブログの更新は、のんびりとお付き合い下さい。

* * *

 さて、実質1本目の記事は、先月14日に知財高裁で判決が言い渡されました「チュッパチャプス対楽天」事件の判決内容のご紹介です。

1.
 本件の一審原告・控訴人(以下「X社」)は、キャンディーで日本でも有名な「チュッパチャプス」の日本における商標権を有するイタリア法人です。
 本件は、インターネットショッピングモールである「楽天市場」に出店する複数の日本企業が、このチュッパチャプスのロゴ(ロゴも有名ですよね)を無断で使用したマグカップや帽子、携帯ストラップ等(「本件各商品」)を「楽天市場」を通じて販売したため、X社が、当該モールを運営している楽天(一審被告・被控訴人)に対して、差止めと損害賠償の支払いを求めた事案です。

 X社の上記の請求は、具体的には以下のようなものでした。
・楽天市場における本件各商品の展示及び販売について、楽天は、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、少なくとも本件各出店者を幇助して、X社の登録商標または周知・著名な表示に類似する標章を付した商品を展示または販売(譲渡)して、X社の商標権を侵害し、不正競争行為を行ったものである。
・よって、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき上記標章を付した商品の譲渡等の差止めと、民法709条及び不正競争防止法4条に基づき弁護士費用相当額の損害賠償を求める。

 本件の中心的な争点は、本件各商品の展示及び販売について、楽天が商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号、2号)の「譲渡のために展示」または「譲渡」を行ったかどうか、という点でした。
 これは、楽天自身は楽天市場を運営しているだけであって、実際に本件各商品を販売したりネットに商品を掲載していたのは、上記の本件各出店者だったことから、「楽天自身が上記の商標法や不正競争防止法にいう『譲渡のために展示』をしたとか、『譲渡』をしたとか評価することができるのか」ということが問題になった訳ですね。

2.
 本件の一審である東京地裁の判決(平成22年8月31日・判例時報2127号87頁)は、以下のように判断しました。(以下、下線は筆者による)

(1)
 「そこで、被告が本件各商品について上記『譲渡』を行ったかどうかについて検討する。
 前記前提事実によれば、①被告が運営する楽天市場においては、出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、②被告は、上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については、当該出店ページの出店者が当該商品の『譲渡』の主体であって、被告は、その『主体』に当たるものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても、その販売に係る『譲渡』の主体は、本件各出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきである。」

(2)
 「これに対し原告は、楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば、被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら、前記前提事実によれば、
①被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが、個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われ、出店者は、事前に被告の承認を得ることなく、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていないこと、
②出店ページに登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与しておらず、また、商品の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していないこと、
③顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、当該商品の出店者が行い、被告は、一切関与しないこと、
④売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われること、
被告は、出店者から、販売された商品の代金の分配を受けていないこと、
⑥もっとも、被告は、出店者から、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)の支払を受けるが、これらは商品の代金の一部ではなく、また、システム利用料は売上高の2ないし4%程度であること(別表参照)に照らすと、商品の販売により、被告が出店者と同等の利益を受けているということもできないこと、
⑦顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに『注文内容確認メール』が自動的に送信され、これと同時に、同内容の『注文内容確認メール』が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが、これらの送信は、機械的に自動的に行われているものであり、被告の意思表示や判断が介在しているものとはいえないこと、
⑧被告の出店者に対するRMSの機能、ポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供等は、出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえないこと、

以上の①ないし⑧に照らすならば、実質的にみても、本件各商品の販売は、本件各出店者が、被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり、本件各商品の販売の過程において、被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと、これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない。

 また、本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから、被告の計算において、本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない。

 さらに、上記①ないし⑧に照らすならば、本件各商品の販売について、被告が本件各出店者とが(ママ)同等の立場で関与し、利益を上げているものと認めることもできない。もっとも、本件各出店者と被告との間には、被告は、本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから、本件各出店者における売上げが増加すれば、システム利用料等による売上げが増加するという関係があるが、このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば、被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

(3)
(中略)
「以上のとおり、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品の販売に係る『譲渡』(商標法2条3項2号)の主体は、出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきであり、これと同様に、『譲渡のために展示』する主体は、出店者であって、被告はこれに当たらないというべきである。
 また、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である。」
「以上によれば、本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は、商標法2条3項2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることはできず、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の『譲渡のための展示』又は『譲渡』に該当するものと認めることもできない。
 そうすると、被告の上記行為が上記『譲渡のために展示』又は『譲渡』に該当することを前提とする原告の本件差止請求及び損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。」

 以上より、裁判所は、原告であるX社の請求を棄却しました。

(4)
 地裁判決は、本件における楽天と各出店者及び顧客との関係について詳細に事実認定・分析した上で、結論として、楽天は商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの(及び不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」をするもの)には該当しない、と判断しています。
 地裁の判断のベースにあるのは、やはり楽天自身の「譲渡」と言えるためには、楽天が出店者と顧客との間の売買に一定程度強固な関与があったり、当該売買から相当程度の利益(上記判示では「同等の」とか「直接的」利益、という言葉が使用されています)があったりすることが必要である、というスタンスのように思われます。
 さて、この地裁判決に対し、控訴審である知財高裁ではどのような判断が下されたかと言いますと・・・。
 (以下、追って更新する「後編」に続きます。本日はここまでということで・・・。)

2012年2月12日日曜日

[再掲]ウィニー(Winny)事件最高裁決定(前編)

(以下は、本ブログの親ブログである「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」に昨年12月21日にアップした記事を転載したものです。)

* * *

既に報道等で大きく取り上げられましたが、ファイル共有ソフト「ウィニー」(Winny)の開発者が著作権法違反罪の幇助犯に問われた裁判で、最高裁(第3小法廷)は、19日、検察側の上告を棄却する決定を下し、この結果、無罪判決を言い渡した高裁判決の判断が確定することになりました。
 裁判所のHPには、本日(21日)の昼間に、決定文全文がアップされております。

* * *

 そこで、本件について、まず、第一審、控訴審、最高裁で、本件のようなソフトの開発が幇助罪にあたるか否かの判断基準がどのように変遷してきたのか、簡単に整理しておくことにいたします。
(以下、判決・決定文中の下線は筆者による)

(本件については、法律家に限らず世の中でも非常に沢山の方々が今まで議論をされてきており、また、法律家の中でも本件について私よりもはるかに詳しい知識と御見識をお持ちの方々が多数いらっしゃいますので、私ごときがブログでコメントしても世の中への寄与はほとんどないものと理解しておりますが、何卒私の拙い整理にお付き合い下さいますと幸いです)


(1) 第一審判決(京都地裁平成18年12月13日判決・判例タイムズ1229号105頁):結論・有罪(罰金150万円)

「WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、被告人自身が述べるところや・・・供述等からも明らかなように、それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかなる目的の下に開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大も妥当でないことは弁護人らの主張するとおりである。」
「結局、そのような技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解するべきである。」

→この基準については、基準として漠然としすぎている、幇助犯が認められる範囲が広すぎる、したがって、この基準では新規技術の開発・提供に対して萎縮的効果が出かねない、などといった批判がなされていました。

(2) 控訴審判決(大阪高裁平成21年10月8日判決):結論・無罪

「・・・、Winnyは価値中立の技術であり、様々な用途がある以上、被告人のWinny提供行為も価値中立の行為である。(中略) ・・・、価値中立のソフトをインターネット上で提供する行為に対して幇助犯として刑事責任を問うことは慎重でなければならない。」
「したがって、価値中立のソフトをインターネット上で提供することが、正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためにはソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し、認容しているだけでは足りずそれ以上に、ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。」

→この控訴審の基準は、「ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し、認容している」場合に加え、更に、「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する」という、いわば積極的誘因(勧奨)行為とも言うべき行為を要件として付加しています。
 このように、控訴審の基準は、第一審判決と比較し、成立要件に絞りをかけていますが、この基準は、本件と同様にファイル共有者ソフトの提供者が責任を追及された海外の訴訟(例えば、米国のGrokster事件)における判断基準と類似しているとの指摘もあります。実際、本件の弁護人は海外の複数の同種裁判例を控訴趣意書で引用したとのことです。

→今回の最高裁決定は、この控訴審の基準に対し、「当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず、提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く、刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない。」として排斥しました。


(3) 最高裁決定(最高裁平成23年12月19日決定):結論・無罪

「・・・、Winnyは、1,2審判決が価値中立ソフトと称するように、適法な用途にも、著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトであり、これを著作権侵害に利用するか、その他の用途に利用するかは、あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。(中略)
 かかるソフトの提供行為について、幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また、そのことを提供者においても認識、認容していることを要するというべきである。すなわち、ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

→上記のとおり、最高裁の上記判断は、本件のような価値中立ソフトの公開、提供行為が著作権侵害の幇助行為に当たるのは、以下の2つの場合であると判示しています。
①ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合
②当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたとき

→上記②の「例外的とはいえない」というのは、ワーディングとしても内容としても、注目すべき基準だなあ、というのが、決定文を読んだ時にまず思った感想です(まだ直感レベルの感想に過ぎませんが・・・)

* * *

 かなり長くなって来たのと、時間の関係で、本日は判断基準のご紹介までとさせて頂きます・・・。続きは「後編」で・・・(本件は、後編でご紹介する「『あてはめ」も、決定文を読んだ限りは有罪か無罪かに関してかなり「際どい」判断をしているように思え、その理解は非常に重要であろうと考えております)。

[再掲]ウィニー(Winny)事件最高裁決定(後編)

(以下は、本ブログの親ブログである「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」に昨年12月26日にアップした記事を転載したものです。)

* * *

 さて、すっかり書くのが遅れてしまったWinny事件最高裁決定の後編になります。
 前回(12月21日)の記事では、判断基準(規範)に関する第一審、控訴審、最高裁の内容を比較して紹介したところで終わっておりましたので、本日の後編では、あてはめ部分と結論について言及させて頂きたいと思います。


1.
 まず、前回のブログ記事のおさらいになりますが、最高裁は、本件のような価値中立ソフトの提供行為について幇助罪が成立するための要件として、以下の基準を定立しました(下線は筆者による)。

「かかるソフトの提供行為について、幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また、そのことを提供者においても認識、認容していることを要するというべきである。すなわち、ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

2.
 以上の判断基準を受けて、最高裁決定は、本件への「あてはめ」へと移ります。

 まず最高裁は、「被告人が、現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、本件Winnyの公開、提供を行ったものではないことは明らかである」と判示し、上記1の①の要件の存在を否定します。

3.
 続けて、本件の本題である上記1の②の要件の該当性の有無に議論を移します。

(1)
 まず最高裁は、上記1の②の前段の要件である「当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合」にあたるかどうか、すなわち、客観面の状況について、以下のように述べました。

・「当該ソフトの性質」=「Winnyは、それ自体、多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであるとともに、本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも、摘発されにくく、非常に使いやすいソフトである。」

・「その客観的利用状況」=「・・・、ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況については、時期や統計の取り方によって相当の幅があり、本件当時のWinnyの客観的利用状況を正確に示す証拠はないが、原判決が引用する関係証拠によっても、Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で、かつ、著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったというのである。」

・「提供方法」=「違法なファイルのやりとりをしないようにとの注意書きを付記するなどの措置を採りつつ、ダウンロードをすることができる者について何ら限定をかけることなく、無償で、継続的に、本件Winnyをウェブサイト上で公開するという方法によっている。」

 最高裁は以上を受け、「これらの事情からすると、被告人による本件Winnyの公開、提供行為は、客観的に見て、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開、提供行為であったことは否定できない。」と判断しました。
 すなわち、最高裁はこの部分で、上記1の②の前段の要件である「当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合」にあたる、つまり客観面の要件は充足する、と判断した訳です。

(2)
 続けて、最高裁は、上記1の②の後段の要件である「提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い」という、主観面の要件該当性についての検討に移ります。

(a)
 「他方、この点に関する被告人の主観面をみると、被告人は、本件Winnyを公開、提供するに際し、本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや、そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの、いまだ、被告人において、Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており、本件Winnyを公開、提供した場合に、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。」

(b)
 「確かに、
① 被告人がWinnyの開発宣言をしたスレッド(以下「開発スレッド」という。)には、Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者が多数の書き込みをしており、被告人も、そのような者に伝わることを認識しながらWinnyの開発宣言をし、開発状況等に関する書き込みをしていたこと、
② 本件当時、Winnyに関しては、逮捕されるような刑事事件となるかどうかの観点からは摘発されにくく安全である旨の情報がインターネットや雑誌等において多数流されており、被告人自身も、これらの雑誌を購読していたこと、
③ 被告人自身がWinnyのネットワーク上を流通している著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていたことの各事実が認められる。
 これらの点からすれば、被告人は、本件当時、本件Winnyを公開、提供した場合に、その提供を受けた者の中には本件Winnyを著作権侵害のために利用する者がいることを認識していたことは明らかであり、そのような者の人数が増えてきたことも認識していたと認められる。」

(c)
 「しかし、
①の点については、被告人が開発スレッドにした開発宣言等の書き込みには、自己顕示的な側面も見て取れる上、同スレッドには、Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者の書き込みばかりがされていたわけではなく、Winnyの違法利用に否定的な意見の書き込みもされており、被告人自身も、同スレッドに、「(筆者注:決定文には文言が記載されていますがここでは略します)」などとWinnyを著作権侵害のために利用しないように求める書き込みをしていたと認められる。
 これによれば、被告人が著作権侵害のために利用する蓋然性の高い者に向けてWinnyを公開、提供していたとはいえない。・・・(後略)」

 「②の点については、インターネットや雑誌等で流されていた情報も、当時の客観的利用状況を正確に伝えるものとはいえず、本件当時、被告人が、これらの情報を通じてWinnyを著作権侵害のために利用する者が増えている事実を認識していたことは認められるとしても、Winnyは著作権侵害のみに特化して利用しやすいというわけではないのであるから、著作権侵害のために利用する者の割合が、前記関係証拠にあるような4割程度といった例外的とはいえない範囲の者に広がっていることを認識、認容していたとまでは認められない。」

 「③の被告人自身がWinnyのネットワーク上から著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていた点についても、当時のWinnyの全体的な利用状況を被告人が把握できていたとする根拠が薄弱である。」
 「むしろ、・・・、被告人の関心の中心は、P2P技術を用いた新しいファイル共有ソフトや大規模BBSが実際に稼働するかどうかという技術的な面にあったと認められる。・・・。そして、前記のとおり、被告人は、本件Winnyを含むWinnyを公開、提供するに当たり、ウェブサイト上に違法なファイルのやり取りをしないよう求める注意書を付記したり、開発スレッド上にもその旨の書き込みをしたりして、常時、利用者に対し、Winnyを著作権侵害のために利用することがないよう警告を発していたのである。」

(d)
 「これらの点を考慮すると、いまだ、被告人において、本件Winnyを公開、提供した場合に、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めることは困難である。」

4.
 以上を受け、最高裁は、以下のとおり結論を示しました。
「以上によれば、被告人は、著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くといわざるを得ず、被告人につき著作権法違法罪の幇助犯の成立を否定した原判決は、結論において正当である。」

* * *

 上記の最高裁の判示を読んで、私が思ったことは、以下のとおりです。

◯最高裁のあてはめの上記3(1)について

①上記3(1)で、「ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高い」と言えるか否かの判断要素として、「当該ソフトの性質」「その客観的利用状況」「提供方法」の3つが挙げられていますが、「例外的とはいえない範囲」かどうかという、当該要件該当性判断の中核的要素たる部分の判断は、結局のところソフトの客観的利用状況のみを考慮しているように思われます。(他方、「当該ソフトの性質」「提供方法」という他の要素は、「蓋然性の高さ」に関係する要件であると思われます)

②上記3(1)では、「4割」という数字が、「例外的とはいえない範囲」に該当することを、最高裁は示唆しているように読め、今後の事例においてこの「例外的とはいえない範囲」にあたるか否かの判断にあたり、この「4割」という数字が、一定の重要性を持つと思われます。(少なくとも、4割を超える割合の事例においては、この「例外的とはいえない範囲」に該当する可能性が高いと思われます。)

③(あてはめに対する感想ではなく、判断基準についてのコメントになりますが)そもそも何故最高裁は「例外的とはいえない範囲の者」という、少し妙な言い回しを使用したかという点について自分なりに想像してみたのですが、それは、「多くの者」とか「相当程度の者」といった言い回しの基準よりもより低い基準を設定することが適切と考えたからではないか、と思いました。
 より具体的には、50%を下回る場合にも要件に該当するような基準にすべき、という考慮があったのではないか、と思われます。
 この点、上述の「多くの者」とか「相当程度の者」という文言ですと、50%は超えているかのような解釈をされかねないので、「例外的とはいえない範囲」と表記すれば、50%未満の場合にも要件該当性があると解釈されうる文言になっているので適切であろう、と最高裁は考えたように推測されます。

◯最高裁の判断の上記3(2)について

 ここでの最高裁の判示内容が必ずしも説得的とは思えなかったのは私だけでしょうか・・・。
 判示で挙げられている事実を前提にしても、最高裁の多数意見とは逆の結論、すなわち、被告人が、本件Winnyを公開、提供した場合に、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していた、と判断する余地も十分にありえる、際どい判断であったのではないかと個人的には思っております。

 そもそも最高裁はここで被告人が「本件Winnyを公開、提供するに際し、本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや、そのような者の人数が増えてきたことについては認識していた」ことを認定しているのですが、「Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者の人数が増えてきたこと」の認識・認容と「例外的とはいえない範囲の者がWinnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高いこと」の認識・認容とは、その境界線が非常に曖昧であり、同じ事実を前提にしても評価の仕方によって結論がどちらにも振れる可能性のあるものではないかと思っております。

 また、本件では、そもそも客観面では「例外的とはいえない範囲の者がWinnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高い」ことが認定されています。このように、客観的には「例外的とはいえない範囲の者がWinnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高い」状況下でソフトの開発・提供行為をしている場合に、「いや、例外的とはいえない範囲の者がWinnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況とは認識も認容もしていなかった」と結論づけるには余程の説得的な論証が必要と思われるのですが、最高裁の上記の判示がそれに成功しているとはどうにも思えないのですね・・・。

 この点、本件決定では、大谷剛彦判事が反対意見を述べられていますが、大谷判事が多数意見に反対する理由もこの点でして、大谷判事は反対意見の中で、「本件において、被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められると判断するものであり、多数意見に反対する理由もここに尽きるといえよう。」と述べております。
 大谷判事のような逆の結論を採る裁判官がおられるというのも、個人的には、多数意見の「あてはめ」の判示内容を見る限り、よくわかる気がするところです。

* * *

 以上のとおり、本件は判断基準、及びあてはめとも、いろいろと分析・議論がなされうる内容を含んでいるものと思われ(ただ、本件で被告人に対して無罪の結論が確定したことに関しては、ほとんどの方々(一般人の方々を含め)が結論に賛成されているように見受けられます)、今後の同種事例に対してもどのように考えるべきかについて、様々な材料を与えてくれたような気がいたします。

 最後に、今回の判示内容で個人的に一番印象に残ったのは、大谷判事の反対意見の中の(傍論的な記載になっていましたが)、このくだりです。
「被告人の開発、提供していたWinnyはインターネット上の情報の流通にとって技術的有用性を持ち、被告人がその有用性の追求を開発、提供の主目的としていたことも認められ、このような情報流通の分野での技術的有用性の促進、発展にとって、その効用の副作用ともいうべき他の法益侵害の危険性に対し直ちに厳罰をもって臨むことは、更なる技術の開発を過度に抑制し、技術の発展を阻害することになりかねず、ひいては他の分野におけるテクノロジーの開発への萎縮効果も生みかねないのであって、このような観点、配慮からは、正犯の法益侵害行為の手段にすぎない技術の提供行為に対し、幇助犯として刑罰を科すことは、慎重でありまた謙抑的であるべきと考えられる。多数意見の不可罰の結論の背景には、このような配慮もあると思われる。
 本件において、権利者等からの被告人への警告、社会一般のファイル共有ソフト提供者に対する表立った警鐘もない段階で、法執行機関が捜査に着手し、告訴を得て強制捜査に臨み、著作権侵害をまん延させる目的での提供という前提での起訴に当たったことは、いささかこの点への配慮に欠け、性急に過ぎたとの感を否めない。(中略)
 一方で、一定の分野での技術の開発、提供が、その効用を追求する余り、効用の副作用として他の法益の侵害が問題になれば、社会に広く無限定に技術を提供する以上、この面への相応の配慮をしつつ開発を進めることも、社会的な責任を持つ開発者の姿勢として望まれるところであろう。(後略)」
 
* * *
 
 いや、かなりの分量になりました。ようやく書き終わった。
 

2012年2月9日木曜日

新ブログを開設しました。

皆様こんにちは。弁護士の川井信之と申します。東京で弁護士をしております。

  さて、本日、新ブログ「インターネット法務の部屋」を開設いたしました。
(なんか似たような名前のブログがなかったっけ、って突っ込みはご容赦を・・・(笑)。山口先生に怒られたらどうしよう・・・。)

  私は昨年5月より、ライブドアにてブログ「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」(http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/を開始しておりましたが、Bloggerでの本ブログは、インターネット関連に特化した法律ブログとする予定です。

  更新は、週に1回程度を予定しておりますが、どうなることやら・・・。(2週間に1回とか、もう少し低めの目標設定の方がいいかな・・・。)

  本ブログの開設に伴い、本ブログの更新を行う日は、ライブドアの上記ブログの更新は、お休みさせて頂く予定です。

  まあ、法律的に言えば、ブログの会社分割(新設分割)のようなものでしょうか・・・(意味不明)。しばらくしたら元のブログに吸収合併されたりして・・・(笑)。

  インターネット関連の話題を元のブログに書けば、何も新ブログを立ち上げなくてもいいんじゃないの?と思われる方々もいらっしゃるかもしれませんが、一つのブログのままだと、インターネットネタを書くことを怠けそうな気がしたので、特化したブログを立ち上げた方が、インターネット関連のネタを書く強制の契機になっていいかな、と思ったんですね。

 (なお、私、本ブログのサービスであるBloggerを使うのは今日が初めてなので、使い方がまだよくわからず、エイヤで立ち上げた部分もあります。したがいまして、ブログのデザイン・レイアウト等は、今後しばらくの間はいろいろ試してみて変わる可能性があることに何卒御留意下さい。さすがにブログのURLは変わらないと思いますが・・・。)

* * *

  昨年末から暖めていたプランである新ブログの立ち上げ、ようやく完了しました。自分でもどこまで続けられるかわかりませんが、皆様、長い目で見守って頂けますと幸いです。

 ではでは、皆様何卒よろしくお願い申し上げます。

* * *

(おまけ)

A(友人の弁護士) 「新ブログ見たよ。頑張ってね。でもさ、新設分割って言うけどさ、元のブログからコンテンツを移している訳じゃないんだからさ、単なる会社の設立じゃないの?あと、ブログのオーナーは元のブログじゃなくて川井なんだからさ、会社分割ってのは変じゃない?まあ人的分割なのかもしんないけどさ。」

私 「(ざっくりした例えなんだからいいじゃん別に・・・)いや、この後、元のブログに書いたインターネットがらみのネタは新ブログにも移管させようと思ってるんだよ。だからまあ会社分割みたいな感じでしょ?」

A 「それなら会社の設立プラス事業譲渡または資産譲渡じゃね?まあ、俺も法律家らしく敢えて突っ込んでみただけなんだけど(笑)。」

私 「・・・。」