2012年2月12日日曜日

[再掲]ウィニー(Winny)事件最高裁決定(前編)

(以下は、本ブログの親ブログである「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」に昨年12月21日にアップした記事を転載したものです。)

* * *

既に報道等で大きく取り上げられましたが、ファイル共有ソフト「ウィニー」(Winny)の開発者が著作権法違反罪の幇助犯に問われた裁判で、最高裁(第3小法廷)は、19日、検察側の上告を棄却する決定を下し、この結果、無罪判決を言い渡した高裁判決の判断が確定することになりました。
 裁判所のHPには、本日(21日)の昼間に、決定文全文がアップされております。

* * *

 そこで、本件について、まず、第一審、控訴審、最高裁で、本件のようなソフトの開発が幇助罪にあたるか否かの判断基準がどのように変遷してきたのか、簡単に整理しておくことにいたします。
(以下、判決・決定文中の下線は筆者による)

(本件については、法律家に限らず世の中でも非常に沢山の方々が今まで議論をされてきており、また、法律家の中でも本件について私よりもはるかに詳しい知識と御見識をお持ちの方々が多数いらっしゃいますので、私ごときがブログでコメントしても世の中への寄与はほとんどないものと理解しておりますが、何卒私の拙い整理にお付き合い下さいますと幸いです)


(1) 第一審判決(京都地裁平成18年12月13日判決・判例タイムズ1229号105頁):結論・有罪(罰金150万円)

「WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、被告人自身が述べるところや・・・供述等からも明らかなように、それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかなる目的の下に開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大も妥当でないことは弁護人らの主張するとおりである。」
「結局、そのような技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解するべきである。」

→この基準については、基準として漠然としすぎている、幇助犯が認められる範囲が広すぎる、したがって、この基準では新規技術の開発・提供に対して萎縮的効果が出かねない、などといった批判がなされていました。

(2) 控訴審判決(大阪高裁平成21年10月8日判決):結論・無罪

「・・・、Winnyは価値中立の技術であり、様々な用途がある以上、被告人のWinny提供行為も価値中立の行為である。(中略) ・・・、価値中立のソフトをインターネット上で提供する行為に対して幇助犯として刑事責任を問うことは慎重でなければならない。」
「したがって、価値中立のソフトをインターネット上で提供することが、正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためにはソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し、認容しているだけでは足りずそれ以上に、ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。」

→この控訴審の基準は、「ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し、認容している」場合に加え、更に、「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する」という、いわば積極的誘因(勧奨)行為とも言うべき行為を要件として付加しています。
 このように、控訴審の基準は、第一審判決と比較し、成立要件に絞りをかけていますが、この基準は、本件と同様にファイル共有者ソフトの提供者が責任を追及された海外の訴訟(例えば、米国のGrokster事件)における判断基準と類似しているとの指摘もあります。実際、本件の弁護人は海外の複数の同種裁判例を控訴趣意書で引用したとのことです。

→今回の最高裁決定は、この控訴審の基準に対し、「当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず、提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く、刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない。」として排斥しました。


(3) 最高裁決定(最高裁平成23年12月19日決定):結論・無罪

「・・・、Winnyは、1,2審判決が価値中立ソフトと称するように、適法な用途にも、著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトであり、これを著作権侵害に利用するか、その他の用途に利用するかは、あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。(中略)
 かかるソフトの提供行為について、幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また、そのことを提供者においても認識、認容していることを要するというべきである。すなわち、ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

→上記のとおり、最高裁の上記判断は、本件のような価値中立ソフトの公開、提供行為が著作権侵害の幇助行為に当たるのは、以下の2つの場合であると判示しています。
①ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合
②当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたとき

→上記②の「例外的とはいえない」というのは、ワーディングとしても内容としても、注目すべき基準だなあ、というのが、決定文を読んだ時にまず思った感想です(まだ直感レベルの感想に過ぎませんが・・・)

* * *

 かなり長くなって来たのと、時間の関係で、本日は判断基準のご紹介までとさせて頂きます・・・。続きは「後編」で・・・(本件は、後編でご紹介する「『あてはめ」も、決定文を読んだ限りは有罪か無罪かに関してかなり「際どい」判断をしているように思え、その理解は非常に重要であろうと考えております)。

0 件のコメント:

コメントを投稿