1.
さて、日経新聞の5月10日付朝刊にも掲載されていましたが、昨日(5月9日)、消費者庁は、昨年10月28日に公表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を一部改定したことを公表しました(以下、改定後の当該文書を「ガイドライン」と表記します)。
本件に関する消費者庁HP中のリリース資料はこちらです。↓
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf
2.
改定された内容は、当該ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(3)問題となる事例」に、以下の事例を追加した点です。
「◯ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」
今回の改定は、消費者庁の今回のリリース文自体にも書かれておりますとおり、今年話題になった、「食べログ」における「やらせ投稿」(ステマ)を念頭に置いたものですね(もっとも、リリース文には「食べログ」という固有名詞は書かれていませんが)。
3.
さて、口コミサイトにおける投稿についての景品表示法上の問題というのは、ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(2)景品表示法上の問題点」にも書かれていますとおり、
「口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給するものではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される『表示』には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。」(①)(下線・太字は筆者による。以下、引用部分につき同じ。)
という点が議論の出発点となります。
この点、わかりにくいかもしれませんので、もう少し敷衍しますと、景品表示法上の「表示」とは、同法上、以下のように定義されています。
「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するもの」(景品表示法2条4項)
上記の定義内容からもわかりますとおり、景品表示法上の「表示」は、あくまで「事業者」が主体となって行うものでなければならない訳です。
したがって、(上述しました通り、)レストラン等の口コミサイトにおける投稿情報は、通常は、事業者ではなく、一般の利用者すなわち消費者が投稿するものですから、口コミサイトの投稿情報のうち、事業者自身が投稿したもの以外は、本来的には景品表示法における「表示」には該当せず、景品表示法の規制の対象外、ということになる訳です。
4.
しかし、今回問題となったように、事業者(本件であれば、レストラン経営者)が専門業者に依頼して、自らのレストランについて良い内容の投稿を書かせていた場合には、一定のケースでは事業者自身が表示をした、したがって、景品表示法の規制の対象である「表示」に該当する、と評価してもいいのではないか、という考え方が出てくることになります。
この点は、今回のガイドラインの改正前のバージョンでも既に記載されておりまして(今回の改定後のガイドラインでも引き続き記載されています)、ガイドラインの第2の「2 口コミサイト」の「(2) 景品表示法上の問題点」の部分に、上記3の冒頭の①の記載に続けて、
「ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該『口コミ』情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題になる。」(②)(下線は筆者による)
と記載されております。
そして、ガイドラインには、上記記載(上記②の記載)に続けて、今回新たに追加された事例(上記2の青字部分)が、他の事例と共に記載されている訳です。
以上より、上記②の部分の記載のロジックは、景品表示法上における「事業者による表示」という概念を一定程度規範的に解釈しているものと言え、今回のガイドラインの改定は、そういった規範的解釈の一事例を追加したものである、という評価になるものと私は理解しております。
* * *
今回の記事は基礎的な内容を整理しただけですが、本日はこんなところで・・・。
東京・中央区銀座の弁護士が、インターネット・サイバー法に関する法改正、法律に関するニュース、話題を中心に情報発信しています。「弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート」(http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/)別館。
2012年5月10日木曜日
2012年5月7日月曜日
東京地方裁判所の保全事件におけるインターネット関連事件の増加傾向について
皆様ゴールデン・ウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。
さて、ここ数日のネット法務関連の話題は、ゴールデン・ウィーク中の新聞報道をきっかけとした、「コンプガチャ」の景表法違反該当性の話で持ちきりですが、本日の記事はそれとは全く関係ない(笑)内容になります。
しばらく前になりますが、法律雑誌「金融法務事情」の4月10日号(1943号)に、東京地裁民事第9部(保全事件専門部)判事である福島政幸裁判官が書かれた「平成23年の東京地方裁判所における保全事件の運用状況」という論稿が掲載されていました(同号86頁以下)。
その論稿では、(論稿のタイトルそのままですが、)昨年1年間の東京地裁保全部における保全事件の運用状況が紹介されております。
(保全事件というものがどういう性質の事件かの詳細な説明は省略させて頂きますが、非常にざっくり言えば、保全事件手続とは、訴訟の前段階として、当事者間の権利関係を暫定的に確定させるための手続、といったイメージでご理解頂ければよろしいかと思います。)
保全事件は大きく分けて仮差押え事件と仮処分事件に分かれ、仮処分事件はさらに「係争物に関する仮処分」の事件と、「仮の地位を定める仮処分」の事件とに分けられます。
本日のブログ記事の関係で注目したいのが、「仮の地位を定める仮処分」についての上記論稿の記述です。
同論稿によれば、「仮の地位を定める仮処分」事件の全体の事件数は、平成19~23年の5年間で、
(平成19年) 428件
(平成20年) 418件
(平成21年) 443件
(平成22年) 549件
(平成23年) 832件
となっており、平成19年から21年まではほぼ横ばいであったものの、平成22年に100件近く増え、平成23年には更に300件近く激増しているとのことです。これは(恥ずかしながら)知らなかったですね。
そして、上記事件のうち、インターネット関連の事件(すなわち、「発信者情報消去禁止」「発信社情報開示」「投稿記事削除」事件)が一定数存在するのですが、事件全体におけるインターネット関連事件の割合を比較してみますと、
(総数) (インターネット関連事件)
(平成19年) 428件 46件 (10.7%)
(平成20年) 418件 35件 ( 8.4%)
(平成21年) 443件 51件 (11.5%)
(平成22年) 549件 175件 (31.9%)
(平成23年) 832件 499件 (60.0%)
となっています。
なんと、インターネット関連事件は、東京地裁における「仮の地位を定める仮処分事件」全体の6割を占めるに至っており、しかもその割合・件数のここ1~2年の増加ぶりが極めて顕著であることがわかります。凄い増加ぶりですね・・・。そして、数値を照らし合わせると、結局、上述した「仮の地位を定める仮処分」のこの2年の激増は、全てインターネット関連事件の激増によるものであることがわかりますね。
東京地裁の保全の裁判官って、現在は「仮の地位を定める仮処分」事件のうち、5件に3件はインターネット関連事件を手がけている訳なんですね。
なお、平成23年のインターネット関連の保全事件499件を事件類型別に見てみますと、
・発信者情報消去禁止・・・134件
・発信者情報開示・・・・・・・219件
・投稿記事削除・・・・・・・・・146件
となっているとのことです。
まあ、このように平成22年・23年になってインターネット関連の保全事件が激増したのは、インターネット関連の法的問題が一昨年から世の中でいきなり増え始めた、ということではなく、もともと一定数の法的問題はあったものの、こうした問題を裁判手続で解決できることが最近になって世の中にネットや口コミ等を通じて広く知れ渡り、また、そういう事件を手がけているとHP等で広告宣伝する法律事務所もそれなりに現れ始めたことが原因なんだろうな、と思っております(この理解が間違っておりましたら、こっそりご指摘下さい・・・)。
そして、こういう事件類型は、過払い事件などとは違って、すぐに世の中からなくなることは考えにくく、むしろ昨今のSNSの隆盛に鑑みれば、ますます増える可能性もあるんだろうな、と思います。
ちなみに、この論稿でも、著者である福島判事は、「・・・とりわけ、最近ではインターネット上のホームページに掲載されている誹謗中傷等をめぐる仮処分(記事の削除、発信者情報の開示関係)が多数申立てられている。日々事件処理をしている感覚では、仮差押えを含む新受件数の総数は減少しているものの、必要的審尋事件であるところの仮の地位を定める仮処分の事件数が増加していて、債権者だけでなく債務者も呼び出して双方の言い分を聞いた上での判断を求められたり、和解による調整が必要となったりするなど各事件処理に手間がかかること、ホームページの掲載記事をめぐる仮処分にはこれまでの印刷物や電波放送による報道形態とは異なる情報伝播の性質や利用方法の特性を有するメディアであるがゆえに新しい判断を求められるところがあることなどから、事件処理の負担が軽減されてはいない状況にあり、むしろ今後はこの種の申立てがますます増加することが予想される。」と書かれています(同号87~88頁)。なるほど。
しかし、こういった記載内容が、金融専門の法務関係者を主要読者層とする法律雑誌である「金融法務事情」に掲載されるというのもどうかな、という気もしなくもないですが(笑)(そのうち他の法律雑誌にも載るのかな?)。
それでは、本日はこんなところで・・・。
さて、ここ数日のネット法務関連の話題は、ゴールデン・ウィーク中の新聞報道をきっかけとした、「コンプガチャ」の景表法違反該当性の話で持ちきりですが、本日の記事はそれとは全く関係ない(笑)内容になります。
しばらく前になりますが、法律雑誌「金融法務事情」の4月10日号(1943号)に、東京地裁民事第9部(保全事件専門部)判事である福島政幸裁判官が書かれた「平成23年の東京地方裁判所における保全事件の運用状況」という論稿が掲載されていました(同号86頁以下)。
その論稿では、(論稿のタイトルそのままですが、)昨年1年間の東京地裁保全部における保全事件の運用状況が紹介されております。
(保全事件というものがどういう性質の事件かの詳細な説明は省略させて頂きますが、非常にざっくり言えば、保全事件手続とは、訴訟の前段階として、当事者間の権利関係を暫定的に確定させるための手続、といったイメージでご理解頂ければよろしいかと思います。)
保全事件は大きく分けて仮差押え事件と仮処分事件に分かれ、仮処分事件はさらに「係争物に関する仮処分」の事件と、「仮の地位を定める仮処分」の事件とに分けられます。
本日のブログ記事の関係で注目したいのが、「仮の地位を定める仮処分」についての上記論稿の記述です。
同論稿によれば、「仮の地位を定める仮処分」事件の全体の事件数は、平成19~23年の5年間で、
(平成19年) 428件
(平成20年) 418件
(平成21年) 443件
(平成22年) 549件
(平成23年) 832件
となっており、平成19年から21年まではほぼ横ばいであったものの、平成22年に100件近く増え、平成23年には更に300件近く激増しているとのことです。これは(恥ずかしながら)知らなかったですね。
そして、上記事件のうち、インターネット関連の事件(すなわち、「発信者情報消去禁止」「発信社情報開示」「投稿記事削除」事件)が一定数存在するのですが、事件全体におけるインターネット関連事件の割合を比較してみますと、
(総数) (インターネット関連事件)
(平成19年) 428件 46件 (10.7%)
(平成20年) 418件 35件 ( 8.4%)
(平成21年) 443件 51件 (11.5%)
(平成22年) 549件 175件 (31.9%)
(平成23年) 832件 499件 (60.0%)
となっています。
なんと、インターネット関連事件は、東京地裁における「仮の地位を定める仮処分事件」全体の6割を占めるに至っており、しかもその割合・件数のここ1~2年の増加ぶりが極めて顕著であることがわかります。凄い増加ぶりですね・・・。そして、数値を照らし合わせると、結局、上述した「仮の地位を定める仮処分」のこの2年の激増は、全てインターネット関連事件の激増によるものであることがわかりますね。
東京地裁の保全の裁判官って、現在は「仮の地位を定める仮処分」事件のうち、5件に3件はインターネット関連事件を手がけている訳なんですね。
なお、平成23年のインターネット関連の保全事件499件を事件類型別に見てみますと、
・発信者情報消去禁止・・・134件
・発信者情報開示・・・・・・・219件
・投稿記事削除・・・・・・・・・146件
となっているとのことです。
まあ、このように平成22年・23年になってインターネット関連の保全事件が激増したのは、インターネット関連の法的問題が一昨年から世の中でいきなり増え始めた、ということではなく、もともと一定数の法的問題はあったものの、こうした問題を裁判手続で解決できることが最近になって世の中にネットや口コミ等を通じて広く知れ渡り、また、そういう事件を手がけているとHP等で広告宣伝する法律事務所もそれなりに現れ始めたことが原因なんだろうな、と思っております(この理解が間違っておりましたら、こっそりご指摘下さい・・・)。
そして、こういう事件類型は、過払い事件などとは違って、すぐに世の中からなくなることは考えにくく、むしろ昨今のSNSの隆盛に鑑みれば、ますます増える可能性もあるんだろうな、と思います。
ちなみに、この論稿でも、著者である福島判事は、「・・・とりわけ、最近ではインターネット上のホームページに掲載されている誹謗中傷等をめぐる仮処分(記事の削除、発信者情報の開示関係)が多数申立てられている。日々事件処理をしている感覚では、仮差押えを含む新受件数の総数は減少しているものの、必要的審尋事件であるところの仮の地位を定める仮処分の事件数が増加していて、債権者だけでなく債務者も呼び出して双方の言い分を聞いた上での判断を求められたり、和解による調整が必要となったりするなど各事件処理に手間がかかること、ホームページの掲載記事をめぐる仮処分にはこれまでの印刷物や電波放送による報道形態とは異なる情報伝播の性質や利用方法の特性を有するメディアであるがゆえに新しい判断を求められるところがあることなどから、事件処理の負担が軽減されてはいない状況にあり、むしろ今後はこの種の申立てがますます増加することが予想される。」と書かれています(同号87~88頁)。なるほど。
しかし、こういった記載内容が、金融専門の法務関係者を主要読者層とする法律雑誌である「金融法務事情」に掲載されるというのもどうかな、という気もしなくもないですが(笑)(そのうち他の法律雑誌にも載るのかな?)。
それでは、本日はこんなところで・・・。
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