2012年5月7日月曜日

東京地方裁判所の保全事件におけるインターネット関連事件の増加傾向について

 皆様ゴールデン・ウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。 
 さて、ここ数日のネット法務関連の話題は、ゴールデン・ウィーク中の新聞報道をきっかけとした、「コンプガチャ」の景表法違反該当性の話で持ちきりですが、本日の記事はそれとは全く関係ない(笑)内容になります。

 しばらく前になりますが、法律雑誌「金融法務事情」の4月10日号(1943号)に、東京地裁民事第9部(保全事件専門部)判事である福島政幸裁判官が書かれた「平成23年の東京地方裁判所における保全事件の運用状況」という論稿が掲載されていました(同号86頁以下)。
 その論稿では、(論稿のタイトルそのままですが、)昨年1年間の東京地裁保全部における保全事件の運用状況が紹介されております。

(保全事件というものがどういう性質の事件かの詳細な説明は省略させて頂きますが、非常にざっくり言えば、保全事件手続とは、訴訟の前段階として、当事者間の権利関係を暫定的に確定させるための手続、といったイメージでご理解頂ければよろしいかと思います。)

 保全事件は大きく分けて仮差押え事件と仮処分事件に分かれ、仮処分事件はさらに「係争物に関する仮処分」の事件と、「仮の地位を定める仮処分」の事件とに分けられます。

 本日のブログ記事の関係で注目したいのが、「仮の地位を定める仮処分」についての上記論稿の記述です。

 同論稿によれば、「仮の地位を定める仮処分」事件の全体の事件数は、平成19~23年の5年間で、
(平成19年) 428件
(平成20年) 418件
(平成21年) 443件
(平成22年) 549件
(平成23年) 832件
 となっており、平成19年から21年まではほぼ横ばいであったものの、平成22年に100件近く増え、平成23年には更に300件近く激増しているとのことです。これは(恥ずかしながら)知らなかったですね。

 そして、上記事件のうち、インターネット関連の事件(すなわち、「発信者情報消去禁止」「発信社情報開示」「投稿記事削除」事件)が一定数存在するのですが、事件全体におけるインターネット関連事件の割合を比較してみますと、
        (総数)  (インターネット関連事件)
(平成19年) 428件        46件 (10.7%)
(平成20年) 418件        35件 (  8.4%)
(平成21年) 443件        51件 (11.5%)
(平成22年) 549件      175件 (31.9%)
(平成23年) 832件      499件 (60.0%)
 となっています。
 なんと、インターネット関連事件は、東京地裁における「仮の地位を定める仮処分事件」全体の6割を占めるに至っており、しかもその割合・件数のここ1~2年の増加ぶりが極めて顕著であることがわかります。凄い増加ぶりですね・・・。そして、数値を照らし合わせると、結局、上述した「仮の地位を定める仮処分」のこの2年の激増は、全てインターネット関連事件の激増によるものであることがわかりますね。
 東京地裁の保全の裁判官って、現在は「仮の地位を定める仮処分」事件のうち、5件に3件はインターネット関連事件を手がけている訳なんですね。

 なお、平成23年のインターネット関連の保全事件499件を事件類型別に見てみますと、
・発信者情報消去禁止・・・134件
・発信者情報開示・・・・・・・219件
・投稿記事削除・・・・・・・・・146件
となっているとのことです。

 まあ、このように平成22年・23年になってインターネット関連の保全事件が激増したのは、インターネット関連の法的問題が一昨年から世の中でいきなり増え始めた、ということではなく、もともと一定数の法的問題はあったものの、こうした問題を裁判手続で解決できることが最近になって世の中にネットや口コミ等を通じて広く知れ渡り、また、そういう事件を手がけているとHP等で広告宣伝する法律事務所もそれなりに現れ始めたことが原因なんだろうな、と思っております(この理解が間違っておりましたら、こっそりご指摘下さい・・・)。
 そして、こういう事件類型は、過払い事件などとは違って、すぐに世の中からなくなることは考えにくく、むしろ昨今のSNSの隆盛に鑑みれば、ますます増える可能性もあるんだろうな、と思います。

 ちなみに、この論稿でも、著者である福島判事は、「・・・とりわけ、最近ではインターネット上のホームページに掲載されている誹謗中傷等をめぐる仮処分(記事の削除、発信者情報の開示関係)が多数申立てられている。日々事件処理をしている感覚では、仮差押えを含む新受件数の総数は減少しているものの、必要的審尋事件であるところの仮の地位を定める仮処分の事件数が増加していて、債権者だけでなく債務者も呼び出して双方の言い分を聞いた上での判断を求められたり、和解による調整が必要となったりするなど各事件処理に手間がかかること、ホームページの掲載記事をめぐる仮処分にはこれまでの印刷物や電波放送による報道形態とは異なる情報伝播の性質や利用方法の特性を有するメディアであるがゆえに新しい判断を求められるところがあることなどから、事件処理の負担が軽減されてはいない状況にあり、むしろ今後はこの種の申立てがますます増加することが予想される。」と書かれています(同号87~88頁)。なるほど。

 しかし、こういった記載内容が、金融専門の法務関係者を主要読者層とする法律雑誌である「金融法務事情」に掲載されるというのもどうかな、という気もしなくもないですが(笑)(そのうち他の法律雑誌にも載るのかな?)。

 それでは、本日はこんなところで・・・。
 

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